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東京高等裁判所 昭和49年(ラ)75号 決定 1974年4月17日

抗告人 高木新 外二名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。抗告人らが東京地方裁判所昭和四八年(ワ)第八七〇七、第九四八〇、第九四九一号損害賠償請求併合事件に被告国及び同田辺製薬株式会社を補助するため参加することを許可する。」との裁判を求めるというにあり、その理由は、別紙「抗告の理由」(一)(二)に記載のとおりである。

これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

民事訴訟法六四条に基づき、補助参加をするには、同条に定めている「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル」場合でなければならない。

そして、右「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル」場合とは、補助参加の制度の趣旨と補助参加人に対する判決の効力とを関連させてその意味を理解すべきであるといえる。

補助参加の制度は、第三者(参加申出人)が他人間に係属する訴訟の当事者の一方(被参加人)の敗訴によつて蒙る自己の法律上不利益を守るために、その当事者の一方に協力して訴訟を追行することを認める制度であるが、第三者(参加申出人)が右当事者の一方(被参加人)の訴訟の追行に協力し、又はこれに協力しえたにもかかわらず、当事者の一方(被参加人)が敗訴の確定判決を受けるに至つたときは、その敗訴の責任をその当事者(被参加人)と第三者(参加申出人)との間で公平に分担させようとするものと解される。それで、右他人間の訴訟でなされた判決の第三者(参加申出人)に対する効力は、いわゆる既判力でなく、それとは異なる特殊な効力(いわゆる参加的効力)であり、右効力の及ぶ客観的範囲は、判決の主文に包含される訴訟物たる権利関係についての判断だけではなく、その前提として判決の理由中でなされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断などにも及ぶのであるが、右効力の及ぶ主観的範囲は、もとより参加人と被参加人との間に生ずるものであるが、前示参加制度の目的に鑑みると参加人と相手方との間には生ずるものではないと解するのが相当である(最判昭和四五年一〇月二二日・民集二四巻一一号一五八三頁参照)。

そうすると、前述の民事訴訟法六四条にいう「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル」場合とは、本案判決の主文に包含される訴訟物たる権利関係の存否についてだけではなく、その判決理由中で判断される事実や法律関係の存否について法律上の利害関係を有する場合も含まれるといえるが、当該他人間の訴訟の当事者の一方(被参加人)の敗訴によつてその当事者(被参加人)から第三者(参加申出人)が一定の請求をうける蓋然性がある場合及びその当事者の一方(被参加人)と第三者(参加申出人)を当事者とする第二の訴訟で当事者の一方(被参加人)の敗訴の判断に基づいて第三者(参加申出人)が責任を分担させられる蓋然性のある場合でなければならず、第一の訴訟で当事者の一方(被参加人)が相手方から訴えられているのと同じ事実上又は法律上の原因に基づき第二の訴訟で第三者が右相手方から訴えられる立場にあるというだけでは、補助参加の要件を充足しないというべきである。

判決の正確性を高め利害関係者の便宜をはかるためには、広く補助参加を認め証人尋問等の機会を与えるのがよいように思われるが、他方、訴訟が遅延し、複雑化するのを避ける必要があるので、これらの両者の関係を合理的に調整するには、民事訴訟法六四条所定の右要件を前述のとおり解するのを相当と考える。

ところで、一件記録によると、抗告人らが補助参加を申立てている本訴(標記各事件)の各被告ら(被参加人)は、相手方である原告らからキノホルム剤がスモン病の原因であることを前提として、キノホルム剤を製造、販売もしくは製造承認した点を違法として損害賠償を求められているのに対し、抗告人らは別訴(東京地方裁判所昭和四六年(ワ)第六四〇〇号事件)で、右相手方たる原告らからキノホルム剤がスモン病の原因であることを前提として、キノホルム剤を投与した点を違法として損害賠償を求められているものである。そして、抗告人らは、要するに、本訴におけるキノホルム剤がスモン病の原因であるかどうかという因果関係の判断は、別訴の抗告人らに利害関係があるというのである。

しかし、キノホルム剤がスモン病の原因であるかどうかという因果関係についての判断が本訴と別訴とを通じて共通の前提問題となつているというのは、所詮本訴と別訴が同一の事実上の原因に基づいているというものにすぎず、本件において本訴の被告ら(被参加人)の敗訴によつて抗告人らが右被告ら(被参加人)から請求をうけ責任を分担させられる蓋然性がうかがえないばかりか、本訴における判決中の右因果関係の存否についての判断は、抗告人らの補助参加を認めても、いわゆる参加的効力は、別訴における原告らと抗告人らの間に及ぶものではないので、前述のとおり抗告人らが補助参加の要件を充足するとは認めがたい。

そうすると、本件補助参加の申出を不適法として却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤利夫 小山俊彦 山田二郎)

(別紙)抗告の理由 (一)

一、そもそも民訴六四条の解釈にあたつては、補助参加制度の目的および同条の立法趣旨に立ち返り、係属中の訴訟を遅延させ繁雑にさせない限度において、補助参加人の法的利益を尊重して具体的妥当な解釈を試みるべきである。

この観点から原決定の「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル」との要件についての解釈をみるのに、次の問題点があり承服できない。

(ア) 本訴(証人調用の新スモン訴訟)と抗告人らが被告となつている別訴(東京地裁昭和四六年(ワ)第六四〇〇号事件、いわゆる第二次スモン訴訟)とはその関係当事者を異にすることを理由に右要件該当性を否定する。しかしA当事者対B当事者間の訴訟の判決がC当事者対D当事者間の訴訟において将来右Dの地位の判断にあたつて参考とされるおそれがあれば、DはAB間の訴訟に参加する必要があるといつてよい。抗告人らは右にいうD当事者の地位にあるわけである。ことに前記本訴と別訴との関係は、後に述べるとうりであるところからすれば、なるほど本訴の原告と別訴の原告とは、形式的には別人ではあるが、本訴の原告は、別訴の原告と同種の法的地位にあつてしかも別訴の原告を代表する性格を有しているが、さらにいえば、本訴の原告の弁護団(ただし、いわゆる第一グループ)と別訴の原告弁護団とは人的に全く同一であるばかりでなくそれぞれの被告に対する攻撃方法においても同一ないし共通のものを有している。

(イ) 原決定は、本訴と別訴との争点の一部を共通するにとどまるときは前記要件に該当しない旨の判断を示すが、前訴と後訴における争点の全部が共通しなければ、補助参加人が前訴の結果につき利害関係を有する者にあたらないということにはなりはしない。例えば前訴が損害賠償請求事件であつて被告たる加害者Bが敗訴し今度は後訴においてBがCに対して求償しうる関係にあるとしよう。このような場合争点の全部が全部、共通であるわけはない。要は、争点のうち基本的重要なものが共通しておればそれで充分であるといわなければならない。

(ウ) 原決定は「本訴」の権利関係の存否が、実体法上「別訴」における参加申出人らの法律上の地位に影響を及ぼさなければ前記要件に該当しない旨の判断を示す。

なるほど、右要件にいう「利害関係」は「法的」なものであることを要しようけれども、「実体法上」のものに限局しなければならない必然性が補助参加の制度の目的から果して導かれるものであろうか。

前訴における判決主文にいたる判断過程において形成される判断主体の心証形成のうち、後訴の一方当事者にとつて不利益と思われるものが、そのまま後訴に引継がれることが充分予測され、しかも後訴段階においてその当事者にその点についての反対尋問権が保障されないことが予定されている場合、その当事者は、前訴の結果たる判決につき「訴訟法的」な利害関係を有しているといわなければならない。

さて、「本訴」では、

「キノホルムはスモンの原因である→キノホルムを製造もしくはこれを承認したことは違法である→損害賠償義務がある」といつた一連の判断がなされる可能性があり、もし、このようなことがあれば、同一合議体、同一証拠による「別訴」の段階では、抗告人らにつき、

「キノホルムはスモンの原因である→キノホルムを投与したことは違法である→損害賠償義務がある」

といつた一連の判断が示される蓋然性が高い。このような場合、抗告人らは、「本訴」の結果のうちとりわけ「キノホルムはスモンの原因である」との判断につき利害関係を有するわけである。

二、さて、本件補助参加の申出の許否にあたつて最も考慮しなければならないことは、抗告人らが「別訴」の被告として有している証人反対尋問権ないし防禦権の保障という点である。ただこれだけいうと、この保障は「別訴」の枠内においてなされうることであるから「本訴」とかかりあいのないようにみえる。しかしながら「本訴」と「別訴」の関係については、スモン訴訟という超集団訴訟における証人尋問を効率的に行なうために、原裁判所のはからいにより「別訴」のほかに「本訴」が設定されたものであり、「本訴」は「別訴」を代表する性格を有し「本訴」において実施される証人尋問の結果はそのまま「別訴」において援用されることが予定されているという前例のない特殊なものである。このような場合「別訴」における証人尋問の性格をも併有する「本訴」の証人尋問については、抗告人らが「本訴」において補助参加人たる地位を得て反対尋問権を行使するのでなければ「別訴」においてこれを行使する機会が予定されていない以上、ついにこれを行使する機会が失なわれてしまうのである。

原決定は「別訴」の被告たる地位にある抗告人らに対する損害賠償請求権の発生原因たる行為の態様と「本訴」の被告らに対する損害賠償請求権の発生原因たる行為の態様を異にすることを理由に、抗告人らの参加の申出を排斥しているけれども、両者はその根本において共通であることを看過してはならない。すなわち「キノホルムはスモンの発生原因である」という命題が両者の請求権の根本をなしているわけである。従つてこの命題に関する証人の尋問が「別訴」において予定されていない以上、抗告人らとしては本訴において尋問権が保障されるという法的利益を有するわけである。

三、よつて、正義公平、デユープロセスの理念に照らして、抗告人らの補助参加の申出は、補助参加の制度の趣旨に適合していると思われるから、原決定をお取消しの上、参加を許すとの裁判を賜りたい。

(別紙)抗告の理由 (二)

やがて言渡される「本訴」の判決は、「キノホルムはスモンの原因である」か否かの判断部分に限つてみれば、「別訴」に対する関係においては、実質的には、民訴一八四条の中間判決たる機能を営む。

形式論をいえば、「本訴」と「別訴」とは別件であつて、「中間判決」の観念は認められないかもしれないけれども再三繰り返すように、「本訴」はスモン訴訟という超集団訴訟における証人尋問を効率的に行なうために、「別訴」のほかに技術的に特に設けられたものであつて、「本訴」は「別訴」を代表する性格を有し「本訴」において実施される証人尋問の結果はそのまま「別訴」において援用されることが予定されているという特殊性を考慮するとき、「本訴」と「別訴」とは実質的には直列的に一本の訴訟手続を構成しているといつても過言ではない。

そうとすれば、「本訴」の判決は前記の意味合いにおいて「中間判決類以効」を有し、その効力は「別訴」に及ぶから、「別訴」の当事者たる被告人らは、「本訴」の結果につき「訴訟法的」な利害関係を有するものといわなければならない。

ちなみに、ある証人を採用するかどうかは裁判所の訴訟指揮の問題かもしれないけれども、採用された証人に関する反対尋問権を認めるか認めないかは、そのような問題を越えた憲法問題であるといつても差支えない。

さいわい、抗告人ら代理人は、今日まで本件抗告中であるため、民訴六八条一項の規定を援用して「本訴」において椿忠雄および甲野礼作の両証人に対して反対尋問を試みてそれなりの実効をあげてきた。

抗告人らは、正義公平の観念に基づく御庁の具体的妥当な判断を期待し、一日も早くいわば「嫡出子」たる地位が得られるよう願つて、ここに抗告理由補充を試みた次第である。

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